研究概要
素粒子論、中でも現象論を理論的に研究しています。素粒子の種類と性質は、ゲージ原理とヒッグス機構を核とした「標準模型」にまとめられ、きわめて精密に実験結果を予言できることが示されてきました。しかし、それは究極の理論ではなく、背後にはより基本的な理論があると考えられています。その基本理論に迫るため、標準模型で説明できない現象を探求して、次の研究課題に取り組んできました。
ニュートリノ振動:ニュートリノの種類(フレーバー)が時間とともに振動変化する現象。これを通じて (a) 粒子と反粒子間の非対称性(CP非保存)の探索可能性、(b) 物質中を通るニュートリノが被る影響(物質効果)の分析、(c) ニュートリノ振動におけるパラメータ励振、などを研究しています。
荷電レプトンのフレーバー非保存。レプトンフレーバーの保存則は経験則として標準模型に組み込まれており、その破れは直ちに標準模型を超えた物理を示唆します。これまで μ 粒子から電子への転換過程として (a) 原子核内 μ–e 転換、(b) μ粒子原子における μ −e− →e−e− 転換、を考察してきました。
超対称標準模型のもとでの宇宙初期の元素合成。宇宙の暗黒物質の正体は、標準模型では説明できません。そこで標準模型に超対称性という性質を導入して拡張した模型で宇宙初期の元素合成を追跡し、始原軽元素および暗黒物質の存在比を同時に説明できる模型を探索しました。
教育・研究活動の紹介
学部生向け講義では、主として数学の解析系諸科目を学科横断的に担当しています。これまでに「微積分学」「常微分方程式」「ベクトル解析」「複素関数論」「フーリエ解析」を担当し、基本的な分析手法を修得する機会を提供しています。理論物理学の専門性を背景に、自然科学、理工学との連携も視野に教授しています。数学は体系的な科目なので、順を追って学ぶ必要があります。一方、反復練習により達成感を得やすく、確乎たる論理に支えられた思考は自信につながります。こうした特徴を念頭に、数学的能力に加えて、いかなる専門にあっても必要な主体的思考力の涵養を目指しています。
研究室では、学生の専門性に配慮し、非線形現象やニューラルネットワークといった数理科学・情報科学分野の研究課題をとりあげ、数値シミュレーションを伴う分析を扱うことも少なくありません。単なる数値計算だけではなく、理論物理の手法による解析的考察と合わせ、現象の本質を洞察し、見通しよく分析するよう心がけています。
理論物理学の手法には普遍性があり、一見異なる分野にも展開できる点が強みといえるでしょう。
今後の展望
教育では、学生の数学力と主体的思考力を育てます。研究では、ニュートリノ物理やフレーバー物理の実験的展開を見据えて素粒子論の研究を継続しつつ、数理・情報科学の研究課題を開拓します。
社会貢献等
高校生向けの出前授業やSSHへの協力、iP-Uでの講演など。